手外科

手外科とは?

手外科とは?
「手外科」とは、整形外科で扱う疾患の中でも上肢を対象とする機能の改善を行う分野です。手の関節から指先の範囲の外傷、神経障害、変形、腫瘍などの診断・治療を実施します。外傷治療の応用でもある手外科では、顕微鏡下での神経や微小血管の手術もできるようになりました。また、関節形成術や靭帯再建、指の人工関節形成も実施します。
人は二足歩行が可能となり、前足が自由に使える「手」となったために進化を遂げてきました。文字を書いたり食事をとったりするなどの普段の生活での動作をはじめ、スポーツや芸術や音楽に至るまで手の働きは非常に重要であり、「第2の脳」とも呼ばれます。これらの動きには細やかな動きも求められます。通常、手は温痛覚などの感覚を脳に伝達する知覚や神経、脳からの指令で動かす運動神経が機能しています。脳から指令を受けると筋肉が縮んで腱が動くため、手や指の関節を動かすことができます。そのため、手や上肢の動きに障害が起こると普段の生活においてあらゆる面で不自由します。手外科はこれらの障害を全て治療対象としており、運動機能外科としての役割を担っています。例を出すと、「痺れ」という症状に対しても、末梢神経または頸椎の病変どちらが原因か判断できる知識が必要です。様々な領域の整形外科疾患における診断・治療におけるプロセスが手外科に必要とされています。

当院の手外科の特徴

経験豊富な、
元「手外科専門医」
である院長が診療

経験豊富な、元「手外科専門医」である院長が診療
院長は、新潟大学・聖隷浜松病院整形外科在籍時に、豊富な手術経験を持つ手外科専門医でした。
手外科の専門家として、患者様それぞれの生活に合わせたベストな治療方針をご提案します。

院長指導のもと、
鍼灸やリハビリも
取り入れたチーム医療

院長指導のもと、鍼灸やリハビリも取り入れたチーム医療
手は繊細で緻密な機能を持っていますので、専門リハビリを外来治療と同時に実施することでより早期の回復が見込まれます。痺れや痛みなどの症状にとって、安静することよりも良い治療となる場合もあります。

手外科で診療する症状

以下のような症状にお困りの場合は、当院にお気軽にご相談ください。

  • 手指の痛みでスポーツ、仕事に支障が出る
  • 手が痺れる(特に夜中に症状が強く出ることがあります)
  • 肩や肘が痛む、動かしにくい
  • 手首を捻った時に痛む
  • 手指のケガ以降、腫れや痛みが持続する
  • 指が動かしにくい、屈曲や進展でひっかかりがある
  • 細かい作業が難しくなった
  • 親指の付け根が痛む
  • 手指に腫瘍がある

手外科で診療する疾患

ばね指(腱鞘炎)

症状

「ばね現象」と呼ばれる、指の曲げ伸ばしのしにくさや動かそうとした時にひっかかる症状があります。痛むこともあり、症状が進行すると指が伸びたまま曲げられない、指が曲がったまま伸ばせない、といったcatching現象が起こります。男女双方に発症し、特に更年期や妊娠・授乳期の女性に多いです。両手のいずれの指にも発症の可能性がありますが、特に多いのは薬指、親指、中指です。

病態

指を曲げる働きを持つ屈筋腱のトラブルによって生じます。滑膜組織に保護された屈筋腱は指の付け根から指先にかけて腱鞘内を動き、指の曲げ伸ばしが可能となります。滑膜の炎症によって腫れると屈筋腱が腱鞘内で動きにくくなってしまうので、指を動かしにくくなってしまうのです。屈筋腱が太い箇所が、指の付け根である腱鞘入口が狭くなった箇所を通りにくくなると、ばね現象やcatching現象が発生します。

治療

症状があるからといって指を動かさないと、関節が硬くなり動きにくくなってしまう可能性があるため、必ず治療しましょう。
炎症のため強い痛みがあってもばね現象が生じていない時は、腱鞘内に消炎効果の強いステロイド剤を注射します。
ばね現象が強いものの痛みはそれほどでもない場合、腱の通過障害を治療します。まずリハビリによって腱鞘の入り口の拡張を試みますが、改善が見られない場合は手術を検討します。手術は局所麻酔を行ってから切開によって実施しますが、傷は小さく数分で終了します。

ヘバーデン結節

症状

DIP関節と呼ばれる指の第一関節が瘤状に曲がったり膨らむことで、可動域が制限されたり疼痛が起こります。ミューカスシストや粘液嚢腫病態と呼ばれる水いぼのような瘤が生じる場合もあり、大抵の場合は指1本ではなく複数の指に同じ症状が起こりますが、痛みは自然になくなり、症状がある指が変化していきます。

病態

40歳以降の女性に起こりやすく、変形性関節症の一種です。女性ホルモンや体質が関わっているとも考えられています。

治療

テーピングが有効です。強い痛みのため日々の生活に問題がある時は、不安定な関節を固定するための関節固定術を実施し、指の動きを安定化させます。症状は段々進行しますが、人によって変形の度合いは異なります。

ブシャール結節

症状

PIP関節と呼ばれる指の第二関節に痛みや変形が起こります。複数の指に生じる可能性があり、関節が曲げにくくなるため握る動作が難しくなります。

病態

ヘバーデン結節と同様に変形性関節症の一種です。

治療

まずテーピングや外用薬で痛みを和らげますが、指が著しく変形して動かしにくくなり、日常生活に影響する場合は手術が実施されます。人工関節置換術や足趾関節移植術、肋軟骨移植などの術式があります。

手根管症候群

症状

手のひらから親指〜薬指まで痺れ、悪化すると親指に力が入らなくなります。これは親指付け根にある母指球筋という筋肉の萎縮によるものです。起床時や明け方に痺れが強いことが特徴で、痺れで目覚める、ものを握る動作で痺れる場合があります。
更年期、妊娠・授乳期の女性によく見られますが、手を使う力仕事に従事している男性にも発症する可能性があります。

病態

肩から先の手に関わる主な神経である正中神経が、手根管内で圧迫されてしまい、麻痺が起こります。手根管は手のひらの下に存在し、靭帯と手根骨で成っているトンネル状のものです。中に正中神経と9本の指屈筋腱が存在し、靭帯や屈筋腱の滑膜炎による神経の圧迫によって損傷します。

治療

神経障害がどのくらいか評価するため筋電図検査を行い、その後に治療方針が決定します。症状が軽い場合は夜間装具で改善が期待されます。これは就寝中のみサポーターを装着する方法です。強い滑膜炎がある場合はステロイド剤を手根管内に注入します。重症で痺れや痛みが顕著な場合、母指球筋の萎縮が起こっている場合は手術を要します。手術は日帰りで実施でき、15分程度で終了します。片側の腕のみに麻酔をする上肢伝達麻酔下で、手のひらを約3p切開して行います。

肘部管症候群

症状

肘の内側から小指・小指側の薬指に至るまでに、痛みや痺れなどの不快感が現れます。症状が悪化するとかぎ爪や鷲手変形と呼ばれる変化が生じ、指の進展や開閉できなくなります。そのため緻密な作業が上手く行えなくなり、握力低下も見られます。

病態

肘部管と呼ばれる肘の内側部分での尺骨神経の引き延ばしや締め付け・圧迫によって、麻痺が起こります。加齢のための骨の変形、子どもの頃の変形治癒骨折、神経を固定する靭帯や筋肉の圧迫、重労働、スポーツなどが原因です。

治療

保存的治療は経過観察を行う程度であり、現状では治療といった治療が存在しません。筋電図検査と症状によって神経麻痺がどの程度か評価を行いますが、大切なのは進行スピードです。症状の急な悪化や、麻痺が進んでいる場合は速やかに手術を要します。
手術は上肢伝達麻酔下で行われ、日帰りで受けられます。術式は原因によって変わり、約2ヶ月肘の安静が必要なケースもあれば、約1〜2週間で職場への復帰が可能なケースもあります。

ガングリオン

症状

手首の甲側や親指側や手のひらの指の付け根、肘の内側などにしこりや瘤が生じます。外側から触れにくいものは、深部にできるものや小さいものです。米粒〜ピンポン玉くらいの大きさで、硬さは様々です。基本的に痛みませんが、手首の甲側に生じた場合は手をついた時の痛み、肘の内側に生じた場合は神経の麻痺などの原因となる可能性があります。

病態

腫瘍ではなく、関節を保護する組織である関節包や腱鞘の一部が袋状になって、中に滑液が溜まって生じます。

治療

自然消失する場合もあり、そのままにしても問題ありません。神経障害や痛みなどの症状がある場合、美容的に気になる場合は治療します。注射器で中の滑液を吸引して排出する、押し潰す方法を用います。
手関節に発生した場合、関節鏡視下の処置がお勧めです。通常の摘出治療を行うと痛みの悪化や動かせる範囲が狭くなってしまい、再発する可能性が高いからです。

TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷

症状

手を捻ったりついたりした時に、手関節の小指側に痛みが起こります。

病態

遠位橈尺関節と呼ばれる関節を安定させている支持組織をTFCCと呼びます。橈骨と尺骨の前腕骨の2つの骨から成っており、靭帯などが支持組織として存在します。変形や外傷の発生で支持能力がなくなると遠位橈尺関節が不安定となり、疼痛や前腕の稼働制限が生じます。

治療

最初に保存治療としてサポーターを用います。効果がない場合は関節鏡を用いて損傷部を処置したり、時間が経った古いものには再建術を実施したりします。

尺骨突き上げ症候群

症状

TFCC損傷と同様に、手を捻ったりついたりした時に手関節の小指側に痛みが起こります。

病態

痛みがある場合、単純レントゲン写真で手関節を確認した際、前腕骨の尺骨と橈骨と比較して尺骨が長くなっています。生まれつき長さに差があったり、橈骨遠位端骨折で均等ではなくなることがありますが、それが関節軟骨障害やTFCC損傷の原因になり得ます。

治療

保存治療が効かない、再発が何度も起こるケースでは骨切術で尺骨を短くします。大抵はこの処置で痛みがなくなります。

ドケルバン腱鞘炎

症状

親指を動かすと同時に、手関節の親指側に痛みが生じます。

病態

ここには腱鞘が存在し、その中には親指の曲げ伸ばしを行う短母指伸筋、長母指外転筋腱があります。腱鞘は使い過ぎると狭くなって腱の動きを制限しますが、それが炎症と痛みの原因となります。パソコン作業やマッサージを仕事にする人に多く、更年期や妊娠・授乳期の女性にも生じます。

治療

親指を固定して使わず、安静にしていると疼痛は少なくなります。しかし、日常生活は支障が大きく出て仕事も制限されてしまいます。湿布といった外用薬の長期使用も妊娠・授乳期の女性には推奨されません。腱鞘内へのステロイド注射は即効性があり、大抵の場合は症状が改善します。しかし、再発が何度も起こる場合は手術治療を検討します。ステロイド注射を何度も行うと、腱断裂のリスクが高くなるためです。切開の傷は小さく、再発することもなく、局所麻酔を用いて日帰りで可能です。

母指CM関節症

症状

親指の付け根の手関節付近に出っ張りが生じ、ものを掴む・つまむ時に痛みます。悪化すると親指が開きづらくなり、全体の形が変わってきます。

病態

CM関節は指関節の中でも動きが大きく、負担がかかりやすいです。歳をとったり酷使したりすることで、関節を支える靭帯が緩んで亜脱臼が起こり、加えて関節軟骨が摩擦・消耗しやすくなります。

治療

主な治療法は保存的治療です。専用のサポーターをつけてCM関節をサポートします。様々な種類がありますが、当院が採用しているものはシンプルな構造で、親指可動域の制限はありません。強く痛んで日常生活や仕事に支障が出る場合は手術によって治療します。患者様の生活習慣に合わせた術式を、数種類から選択して行います。

マレット変形(槌指変形)

症状

DIP関節と呼ばれる指先端の関節が、伸ばせなくなって曲がったままになります。突き指が原因のことも多いですが、指を衣類に引っかけただけで発生こともあります。

病態

病態は2種類あります。

1.腱性マレット指

伸筋腱断裂が原因で生じ、そのままにすると“スワンネック変形“とよばれるPIP関節が伸び過ぎてしまう状態となります。

2.骨性マレット指

末節骨の関節内における骨折が原因で生じ、そのままにすると関節の脱臼が起こります。

治療

1.
ケガをした直後であれば、原則として副木や装具で動かさないようにします。ケガをしてからかなり時間が過ぎている時は、手術で腱を縫い合わせます。

2.
手術で整復固定して行う治療が基本です。負担は少なく、皮膚の上から2〜3本の細い鋼線を切開せずに刺し入れます。